保育施設で働く保育士の皆様。
同じ保育園で長く働くべきか、それとも転職するべきか迷っている方もいらっしゃると思います。今回は、同じ保育園に保育士が長く勤めるメリット・デメリットを比較してみました。
先に結論を少し書いておくと、
今の職場の環境に特段の不満がなければ、そのままその保育園に長く勤めるということで問題はないでしょう。同じ保育園でのスキルだけが身についてしまうので、自分の身を守るためにも他の保育園と比較して何かおかしいと思うことがないかだけは注意しましよう。
一方で、現状に何か不満を抱えている場合は、保育士においては「長く勤めること」それ自体に何か価値があるということはほとんどありません。何かを犠牲にしてまでもう少し頑張ろうとか、せめて3年だけは我慢しようという考えは不要です。現状の不満というものは、長く勤めたからといって改善される可能性は少ないので、不満が多ければ多いほど転職を検討したほうが良いでしょう。
長く勤めた経験もあれば、短期間で退職した経験もあります
その経験が参考になればと思います
保育士は同じ保育園で平均何年くらい働く?
本題に入る前に、保育園で働く保育士は、同じ保育園にどれくらいの年数を勤続しているのかということ紹介しておきます。
正職員として働く保育士の平均の勤続年数は、厚生労働省の「賃金構造基本統計調査」で公表されています。「令和5年賃金構造基本統計調査」によると、
- 保育士の平均の勤続年数は「8.5年」
※出典:「厚生労働省-令和5年賃金構造基本統計調査」https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/chingin/kouzou/z2023/index.html
保育士の平均勤続年数については以下の記事でも解説しているので参考にしてみてください。
保育士が同じ保育園に長く勤めるメリット
ここからは本題である保育士が同じ保育園に長く勤めるメリットを紹介します。
付与される年次有給休暇日数が増えていく
同じ保育園に長く勤めるメリットの1つ目は、付与される年次有給休暇日数が増えていくということです。同じ保育園に勤める勤続年数が長くなると、基本的に付与される有給休暇日数も毎年増えていきます。
- 6カ月 10日
- 1年6カ月 11日
- 2年6カ月 12日
- 3年6カ月 14日
- 4年6カ月 16日
- 5年6カ月 18日
- 6年6カ月 20日
有給休暇の最低の付与日数は法律で定められていて、入社してからの期間で上記のように増加していきます。入社して6年半経つと最大の20日になります。毎年のように職場をころころ変えていると付与される有給休暇は半年後に10日だけなので、二倍の差が生まれることになります。
もっとも、有給休暇がきちんと消化できるという仕事環境でなければ、増えていっても意味はありません。なので、有給休暇がある程度使える環境であればという前提でのメリットになります。
退職金の有無と金額で有利になる
2つ目のメリットは退職金の金額等が増加するというものです。退職金は基本的に同じ会社に長く勤めると支給される金額が増えていく制度になっています。そして、退職金は、あまりにも勤続年数が短いと支給すらされない場合もあります。金額の違いなどは各保育園が導入している制度によっても異なるので、現在働いている保育園の退職金の制度があまり芳しくないものであれば、転職してあらたな保育園で長く働いたほうが結果的に良いということもあるので注意が必要です。
良くも悪くも給与は安定
同じ保育園に長く働いていると昇給の基準や金額も理解でき、自分の経験によってどのような給料になっていくかということが想像できると思います。あと何年勤務したら役職が付与されて、その手当がいくらぐらいになるということも、その内容が良くても悪くてもおおよそ想像がつくと思います。先輩などの様子などからも推測できる部分もあるでしょう。
将来的な給料水準が想像できるということは、大きな買い物をする時、ローンを組むときなどの参考にもできます。
(その保育園での)仕事のパフォーマンスが上がる
保育士が同じ保育園で働いていると、その保育園のルールや文化などを把握しているので、仕事のパフォーマンスが良くなります。例えば、モノの位置や場所などをひとつとっても、どこになにがあるかを知っているのと知らない場合ではかかる時間やストレスも大きく異なってきます。
そんなことは不可能ですが、まったく同じ内容の仕事を2つの保育園でやるということになった場合は、長く勤めている保育園でしたほうが効率よく仕事をできるはずです。パフォーマンスが上がるということは、同じ仕事量なら自分自身が感じる負担も少なくなるはずです。
信頼関係や仲間意識が生まれる
基本的には人間関係は長く接していくことによって深まっていきます。同じ保育園で同じような保育士の同僚と仕事をしていると、少なからず信頼関係や仲間意識が生まれてくるということはあると思います。そのことが仕事のパフォーマンスや仕事をやる上での充実感を底上げしてくれる場合もあります。仕事終わりのプライベートに食事や飲みに行くなどして、一生涯の友人ができる可能性もあるでしょう。もちろん、保育園での人間関係がうまく言っている前提になります。
保育士が同じ保育園に長く勤めるデメリット
次いで、保育士が同じ保育園に長く勤めるデメリットを紹介します。日本社会では同じ会社に長く勤めるということは、一般的に美徳とされていますが、デメリットも多くあります。
何事も我慢が続く
同じ保育園で長く働くということの一番のデメリットは「我慢が続いてしまう」ということです。今の職場で抱えている我慢は、基本的にはずーっと続いてしまうことが多いです。
- 人間関係の不満
- 給与待遇の不満
- 仕事量の不満
など人によっても状況によっても様々です。
人間関係で、例えば性格の悪いパワハラをしてくる園長がいる場合は、基本的にそれを我慢して仕事をし続けなければいけません。他の保育園と比較して給与が低かったり、残業やサービス残業、持ち帰りの残業などがある場合も同様です。
もちろん、これらの内容は長く働いていることで解消される可能性がないわけではありません。勤めている中で、嫌だった誰かが退職することもありますし、労働環境は徐々に改善されていく可能性もあります。ただ、それではほとんど自分でどうにかするということではなく、運まかせになってしまいます。一人の保育士として、誰かを退職させたり、保育園全体を効率化させるというのはなかなか難しいためです。
逆に言うと、その保育園で働くことで得ているの満足も続くので、その点はメリットとも言えます。
同じ保育園のスキルだけが身についてしまう
同じ保育園のスキルだけが身についてしまうのも、保育士が同じ保育園に長く勤めるデメリットの一つです。
保育の質が高い保育園ならまだ良いかも知れませんが、もし質の低い保育園の場合は、偏った方法や良くない保育スキルが身についてしまうことにもなります。そして、質の低い保育園で働き続けること事態がリスクになります。事故や事件などに巻き込まれるリスクも出て来るでしょう。もし万が一、今後転職しなければならないとなった時に、転職後の保育園で常識外れの保育をしてしまう可能性もあります。
なんかこの保育園の保育はおかしいなと思ったら、長く勤めるというのは危険かもしれません。
同じ保育園に保育士が長く勤めているかがあまり関係ないこと
ここからは、これまでとは逆に同じ保育園に保育士が長く勤めているかどうかということはあまり関係ないことについて紹介します。
転職先の保育園での評価
一般的な会社員がどうかはわかりませんが、保育士という職業に関しては、同じ保育園に勤め上げている、もしくは、長く勤めていないということは、転職先での評価にあまり影響はしません。
保育士の平均勤続年数はそもそも他の職種と比較しても短く、入れ替わりが激しいためです。それに加えて保育士不足の状況なので、職場を転々としていること、それ自体は転職時の評価を大きく下げるということは少ないです。そして、一般的にもたくさん転職をしている保育士が多いという事情もあります。
もちろん、面接をする採用担当者や園長はなぜすぐに辞めることになったのかということ自体は気になる部分であるので、自分勝手ではない転職理由を用意して、説明できる必要はあるでしょう。
保育士としてのキャリアの形成
保育士としてのキャリアに関しては、同じ保育園に長く勤めているかどうかはあまり関係が無いです。
例えば、保育園の状況によっては主任保育士の席が空くことは当分ないということもあります。家族経営の場合などは、事実上役職者が身内で固められているということもあります。これは、その保育園で長く勤めていたかどうかということはあまり関係がないことになります。
逆に新しく出来た新設の保育園では、経験が比較的浅くても、主任等の役職を任されるというケースもあります。良い部分でも悪い部分でもありますが、若いうちから経験を積むことができるということです。また、一度役職についてしまうと、保育園としても、理由無し降格させるというのは難しいので、安定して役職につくことができるというメリットもあります。
長く働けば自動的に役職がつくとは思わずに、保育士として必要なスキルを保育園を問わずにしっかりと身に着けていくことが大切です。
同じ保育園に長く勤めるつもりなら保育士としてやっておくべきこと
最後に同じ保育園へ長く勤めるつもりなら保育士としてやっておくべきことを紹介します。
自分の保育士としての将来的なキャリアを考える
1つ目は、自分の保育士としての将来的なキャリアを考えるということです。例えば、何歳児のクラス担任を経験して、何年後に主任保育士を目指すなどです。もちろん個人によって様々なので、正解はありません。
キャリアを考えることで、自分自身の保育園での仕事の目標などを具体化することが出来ます。何も考えずに仕事をしてしまうと、いざ転職しなければいけないとなったときに、偏ったスキルになってしまって、転職後に苦労してしまうケースがあります。
「保育士等キャリアアップ研修」等の外部の研修を受ける
2つ目は、「保育士等キャリアアップ研修」等の外部の研修を受けるというものです。
「保育士等キャリアアップ研修」は国が主導で行っている保育士のキャリア形成のための研修で、都道府県が実施しています。
この研修の修了証は日本全国で通用し、副主任や専門リーダーなどの保育士の役職付与の条件にもなっています。外部の研修を受けることで、勤めている保育園では得ることのできないスキルを身に着けるということが大切です。
自分(家族)の居住地を固める
同じ保育園に長く勤めるということの、障壁の一つが引っ越しというライフイベントになります。
保育園は日本中どこにでもあるので、引っ越しをして転職するということは全然問題はないですが、そのタイミングで、その保育園の会社を辞めなくてはいけない可能性がとても高いです。
日本中に系列園があるような保育園会社であれば、引っ越し先の園に異動するということも不可能ではないですが、そのようなケースはかなり稀です。
結婚、パートナー、両親の介護、子育てなど、様ざまなライフイベントの中で引っ越しが必要なケースというのが出てくる可能性がありますが、同じ保育園に長く勤めるつもりであるなら、なるべく、今後の引っ越しの可能性を減らせるような土地の保育園に勤務する必要があります。
安定している保育園に勤める
保育園を運営している企業のなかには、最近の保育園不足の状況下を受けて、サイドビジネス的に保育園の運営をはじめた会社もあります。もし、そのような会社が保育園の運営を辞めたり、事業を手放すということがあれば、その会社で長く働くということができない状況になってしまいます。
また、あまりにも過疎地や新たな子育て世代が見込めないような土地の保育園にも注意が必要です。少子化は進んでいるので、将来的に廃園になってしまうリスクもあります。
ホワイトな保育園に勤める
最後に同じ保育園へ長く勤めるためにもっとも重要だといっても過言ではないことが、ホワイトな保育園に勤めるということです。
保育士が勤めている保育園を退職する原因は、
- 待遇
- 人間関係
が大きな要因になっていて、これらは、ブラックであればあるほど悪くなっていきます。辞めたいと思う要員が多いということは、長く働くことができない可能性が高くなっていくということになります。
まとめ:同じ保育園に保育士が長く勤めるメリット・デメリットを比較!
同じ保育園に保育士が長く勤めるメリット・デメリットを紹介しました。
メリットとして、
- 付与される年次有給休暇日数が増えていく
- 退職金の有無と金額で有利
- 良くも悪くも給与は安定
- (その保育園での)仕事のパフォーマンスが上がる
- 信頼関係や仲間意識が生まれる
ということを紹介しました。
デメリットは、
- 何事も我慢が続く
- 同じ保育園のスキルだけが身についてしまう
これらの話をまとめると、
今の職場の環境に特段の不満がなければ、そのままその保育園に長く勤めるということで問題はないでしょう。同じ保育園のスキルだけが身についてしまうので、自分の身を守るためにも他の保育園と比較して何かおかしいと思うことがないかだけは注意しましよう。
一方で、現状に何か不満を抱えている場合は、保育士においては「長く勤めること」それ自体に何か価値があるということはほとんどありません。何かを犠牲にしてまでもう少し頑張ろうとか、せめて3年だけは我慢しようという考えは不要です。
現状の不満というものは、長く勤めたからといって改善される可能性は少ないので、不満が多ければ多いほど転職を検討したほうが良いでしょう。